そそ)” の例文
新しい朝廷を確立するための犠牲いけにえとして一門親族から涙をそそがれて島へ来ている人身御供ひとみごくうのわが身ぞという悲壮なこころもちなのだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
異時敵を軽んずすでに計にあらず、今日の折衝知るこれ誰なるかを。幽憤胸に満ちてもらす所なく、獄中血をそそいでこの詩を録す
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
入れて置け、俺は天にうったえるのだ、俺が死んで数日したら、きっと蔡州に不思議な事が起る、その時は俺の勝った時だから、酒をそそいで祝してくれ
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし彼の畢生の事業は「井伊直弼伝」の大成である。彼はこの事業の為に三十六年の心血をそそいだ。が、死は彼の命と共に「井伊直弼伝」をも奪ひ去つてしまつた。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてもしまた、ほんとにここにほかの妃もいず人目も見なければ、廉子はいきなり帝の膝へむしゃぶりついて、そのお肌へじかに、物狂わしいまでそそぎもしたろう。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いたいけな一姫ぎみだけへ、そのおん涙は、そそぎきれない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)