やっと)” の例文
こっちへ追われ逃げ場をなくして松の木へ飛び付きやっと呼吸いきを吐いたなんて、へ、それでも稼人かせぎにんけえ? 鼠小僧もたがが弛んだな。
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さあ、退いた、退いた」と、源は肩と肩との擦合すれあう中へ割込んで、やっとのことでたまりへ参りますと、馬はうれしそうにいなないて、大な首を源のからだへ擦付けました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いしが丸くなってしまって、それに火絮が湿ってるだから……やっとの事で点いただ、これでこの紙の附木に付けるだ、それ能く点くべい、えら硫黄臭いが、硫黄でこしれえた紙だと見える
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雲ともつかぬ水蒸気の群は細線の群合のごとく寒い空に懸った。剣のように北側の軒から垂下る長い光った氷柱つららを眺めて、やっとの思で夫婦は復た年を越した。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)