涎掛よだれか)” の例文
が、何分にも、時代も素姓も知れぬ濡れ佛で、折々のときを獻ずる者はおろか、涎掛よだれかけの寄進に付く者もないといふ哀れな有樣だつたのです。
見ると、二、三歳の小児のような涎掛よだれかけが頸部にぶら下がって、男は片手をあげてそれを押えているのだった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
「いくらなんでも三十スウの涎掛よだれかけに飾り花をつけて、それで十五フラン下さいといえますかね。あの奥さんがびっくりしても、それを無理だとは言えないわよ」
私はまた、日本の田舎の町辻にある涎掛よだれかけをかけた石の地蔵とか、柳の落葉をかぶっている馬頭観音とかいうものの姿が、直ぐ其処そこらにでも見当るような親しさで、胸に思い出して居た。
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
水を浴びたようにぞっとなる、霧がたためく間に灰色をして、岩壁を封じてしまう、その底から嘉代吉のなたが晃々と閃めいて、斜めに涎掛よだれかけのように張りわたした雪田は、サクサクと削られる
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それに並んで、実物よりもよほど大きいかと思われる黒い石の牛がうずくまっていて、大きな涎掛よだれかけが掛けてあり、角もいろいろ結びつけてありました。境内からは、塀のすぐ上に堤の桜がよく見えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
お銀も貰い泣きをしながら、子供に涎掛よだれかけを出してくれなどした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、なにぶんにも、時代も素姓も知れぬ濡れ仏で、折々のときを献ずる者はおろか、涎掛よだれかけの寄進に付く者もないという哀れな有様だったのです。
一人の細君が涎掛よだれかけを持って来て、刺繍をしてくれと頼む。