汚斑しみ)” の例文
それらは幾十年の寒さ暑さにって、壁体の上には稲妻のようなひびが斜めにながく走り、雨にさんざんにうたれては、一面に世界地図のような汚斑しみがべったりとつき
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ湯の沸くのを待つだけが望みであるこの森厳で気易きやすい時間に身を任せた。木枯こがらしが小屋を横にかすめ、また真上から吹きおさへる重圧を、老人の乾いて汚斑しみの多い皮膚に感じてゐた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
こゝに凡ての手、凡てのあたまは一齊に動搖する。先鋒に立つ蟻どもは、あの莊嚴な球の上に、汚斑しみの如く見え、間もなく其兩極を連ねて、多くの魂は一線を引いて了ふ。「きう」は暗くなつた。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
それから不図思ひ出したやうに机の上を拭き出すと、机の汚斑しみが気にかかり出した。雑巾の裂目が厭になった。さうなると、もう彼女は自分が厭な感覚に愚弄されてゐるのをはっきり自覚した。
(新字旧仮名) / 原民喜(著)