歯咬はが)” の例文
旧字:齒咬
己はどうも為方がないから、心中では歯咬はがみをしながら、おとなしく話した。エレナを留守宅まで連れて行つて、そこで別れたと云つたのである。
歯咬はがみをして我家のかたをさして行くと、邸のあたりが非常に混雑して提灯ちょうちん右往左往うおうさおうに飛びます。
三郎は本堂の戸をにらんで歯咬はがみをした。しかし戸を打ち破って踏み込むだけの勇気もなかった。手のものどもはただ風に木の葉のざわつくようにささやきかわしている。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
身体に障ってはいけないというのである。俺がこの病でてっきり死ぬものと決めて掛かって、もう勝手な真似を始めたのだなと歯咬はがみをしながら、叔孫は豎牛に命ずる。構わぬ。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
房吉は口惜しそうに歯咬はがみをします。
「引く足があれば、わしも奥へはいるが」と、又七郎は苦々しげに言って歯咬はがみをした。そこへ主のあとを慕って入り込んだ家来の一人が駈けつけて、肩にかけて退いた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
俺は頭を三ツ四ツ続けざまに、あの棒で殴られたと言って歯咬はがみをしているものもありました。眼と鼻の間を一撃の下に打ち倒されて、鼻血を出して頭の上げられない者もありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
役人に附いて来た下人げにんどもは、もう手出しをする勇気もありませんでしたが、今まで役人どものなすところを歯咬はがみをして口惜しがっていた望月方の者でさえも、これには青くなってしまいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それと見て親方のお角は歯咬はがみをしながら