)” の例文
と今までいかにも神妙らしくかしこまっていた矢倉伝内は、ジロリと凄い上目づかいをしながら、玄関の応答に地獄耳をてていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、ふと、呻くような声が寂寞じゃくまくを破った。男は聞き耳をてると、その声がだんだん戸口の方へ近づいて来た。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その間私は坐禅をやって居りますと勝手元の方で非常に女の泣声がする。どうも奇態だ、何か喧嘩でもして居るのかと思って耳をてて聞きますと喧嘩の様子ではない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
とばりの外に立っている歩哨ほしょうの兵が、それを見て笑った。——が、急に、厳粛な顔へ戻って、内から聞える声に耳をてた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
引ったくるように徳利を取った新九郎は、グウ……と一息にりかけたが、その時俄かに、物に襲われたような顔をして、ジッと聞き耳ててしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに一名がふと、聞き耳をてて、遠心的な眼をうつつにした。誰も彼も急に口をつぐんで夜寒よさむの壁を見まわした。どこかで嬰児あかごの泣き声が遠くしていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田中貞四郎は、梯子段はしごだんの下に立って、板場の見える窓のそばに、きき耳をてていたのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんど何か自分の面当てがましいことをいったら、躍り立って、壇にいる善信のえりがみをつかんでやろうと心にたくらんでいるらしく、じっと、聞き耳をてて、善信のことばを聞いていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼をみひらき、耳をてて、曹操は始終を聞き入っていたが
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)