梓川あずさがわ)” の例文
さきに石田佐吉がいったことばの通り、梓川あずさがわの渓流は、それに沿ってのぼっても溯っても水源らしくならなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梓川あずさがわちゅう川に沿うて、野麦街道から奈川渡なかわどに出て、そこから、大野川に行って、山にかゝり、降りる時は、飛騨側の北平きたゞいらの雪渓を渡って、平湯鉱山から平湯に出て
その幕の一部を左右に引きしぼったように梓川あずさがわ谿谷けいこくが口を開いている。それが、まだ見ぬ遠い彼方かなたの別世界へこれから分けのぼる途中のけわしさを想わせるのであった。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三年まえの夏のことです。僕は人並みにリュック・サックを背負い、あの上高地かみこうちの温泉宿やどから穂高山ほたかやまへ登ろうとしました。穂高山へ登るのには御承知のとおり梓川あずさがわをさかのぼるほかはありません。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老母は、聖観音の前にし、秀吉夫婦は、聖観音の御背にある内陣裡ないじんうちの一房にやすんだ。梓川あずさがわの渓谷の音と、ほととぎすの声が、夜もすがら聞えていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なお六、七里、めったに里人も通わぬ道を参ります。姉川の上流梓川あずさがわの水は、たにをせき淵をなし、道に沿うておりますが、どこまで行っても水源に到りません」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)