柔軟じゅうなん)” の例文
なおその上にもう一つ、彼の詩的人生観に一層の深まりや柔軟じゅうなん屈折くっせつあたえたものとして、彼の生れや育ちの事情も忘れてはなりますまい。
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
ただ、彼には顔淵の受動的な柔軟じゅうなんな才能の良さが全然み込めないのである。第一、どこかヴァイタルな力の欠けている所が気に入らない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その時の、あなたのひとみ柔軟じゅうなんな美しさは、今も目にあります。「笑って」といったら、ほんとに、あなたはにっこり笑った。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
するようになってから常に春琴の皮膚ひふが世にもなめらかで四肢しし柔軟じゅうなんであったことを左右の人にほこってまずそればかりが唯一の老いのごとであったしばしばてのひら
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
生ぬるい水中へぎゅーんと五体がただ一つの勢力となって突入とつにゅうし、全皮膚ひふの全感覚が、重くて自由で、柔軟じゅうなんで、緻密な液体に愛撫あいぶされ始めると何もかも忘れ去って
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかもあくまでその態度は柔軟じゅうなんでまた神妙なため
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)