枳殼垣からたちがき)” の例文
新字:枳殻垣
此家ここの隣屋敷の、時は五月の初め、朝な/\學堂へ通ふ自分に、目も覺むる淺緑の此上こよなく嬉しかつた枳殼垣からたちがきも、いづれ主人あるじは風流をせぬ醜男か
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
丸山町へ行つてがけの下の方から見ると、直助の家は竹林の上に屋根だけ見せますが、竹林の中には人間の歩いた樣子はなく、第一、竹林の外の枳殼垣からたちがき
竹から竹を傳はつて枳殼垣からたちがきを越え、しひ滑降すべりおりて、下の往來に立つたのは、思ひも寄らぬ見事な體術です。
人のはひられぬ樣に厚い枳殼垣からたちがきを繞らして、本丸の跡には、希臘か何處かの昔の城を眞似た大理石の家を建てて、そして、自分は雪より白い髮をドッサリと肩に垂らして、露西亞の百姓の樣な服を着て
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「池の端の枳殼垣からたちがきの中——あのお吉の長襦袢ながじゆばんを脱ぎ捨ててあつたあたりに女のくしが落ちてゐたんで」
もう一つ、直助の腕と身體を見て、此男なら、竹から竹に傳はつて、枳殼垣からたちがきが越せると思つたんだ。——染吉を殺したのは、極く懇意な男だ、勇太郎か直助の外にはない
お六の金をさらつた雪之助は自分の家へ持込むのが不用心と思つたので一と先づ枳殼垣からたちがき越しに、財布を隣の寺の境内に投げ込み、翌る日の朝行つて始末をし、金は燈籠に
平次は此處に腰をえて調べるのかと思ふと、勝手口の表戸の締りだけ見て、至つて簡單にきりあげ、最後に、路地の突き當りの枳殼垣からたちがき越しに、寺の境内の樣子を眺めました。
岸へぎ寄せて、枳殼垣からたちがきへ引つ掛けたのを見ると、まぎれもなくそれは、緋縮緬ひぢりめん扱帶しごきで、斑々としてしぼぞめのやうに薄黒くなつてゐるのは、泥に交つた古い血の凝固かたまりだつたのです。
岩吉は枳殼垣からたちがきと建物の間を狹く拔けて、お六婆アの家の裏口へ廻つて仰天しました。
もう一つ念のために今朝枳殼垣からたちがきの上にあつたといふ、お吉の着物を見せてもらひましたが、それはおめかけらしい派手な長襦袢ながじゆばんで、燃え立つやうな緋縮緬ひぢりめん扱帶しごきまでも添へてあるのです。