月桂げっけい)” の例文
庭の橄欖かんらん月桂げっけいは、ひっそりと夕闇に聳えていた。ただその沈黙がみだされるのは、寺のはとが軒へ帰るらしい、中空なかぞら羽音はおとよりほかはなかった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
庭には松やひのきあいだに、薔薇ばらだの、橄欖かんらんだの、月桂げっけいだの、西洋の植物が植えてあった。殊に咲き始めた薔薇の花は、木々をかすかにする夕明ゆうあかりの中に、薄甘いにおいを漂わせていた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
悠々とアビトのすそを引いた、鼻の高い紅毛人こうもうじんは、黄昏たそがれの光のただよった、架空かくう月桂げっけいや薔薇の中から、一双の屏風びょうぶへ帰って行った。南蛮船なんばんせん入津にゅうしんの図をいた、三世紀以前の古屏風へ。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)