じっ)” の例文
何事か頭にひらめいて来たらしい。その眸子ひとみじっと、眼下に突出している岬のあたりをみつめ、右手の指は鉄の柵をせわしく叩きだした。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
動かずにいる体が少し寒さを感じて来た頃、心あてにじっと見詰めていた方向から、水桶を重そうに背負った男の姿がにじみ出した。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
この音のない天地を、小さな子供の努力でありながら、掻き乱したい。眠ることの出来ない孤独の我が心を、じっとして淋しくしているだけの忍耐が出来なかった。
感覚の回生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と語り了って主人は私の顔をじっと見詰めた。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
私は、手を上げてうのも物憂ものうかった。自然に逃げて行くのをまっていると、烏はじっとして動かなかった。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
千之は窓の近くへ歩寄って、暗い庭をじっと見やりながら云った。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)