敷妙しきたえ)” の例文
空は晴れて、かすみが渡って、黄金のような半輪の月が、うっすりと、淡い紫のうすもの樹立こだちの影を、星をちりばめた大松明おおたいまつのごとく、電燈とともに水に投げて、風の余波なごり敷妙しきたえの銀の波。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い瞳がうち看守る八つの湖、春を敷妙しきたえの床の花原。この間にところどころ溶岩で成れる洞穴があった。形よき穴には生けるものが住んでいた。形悪しきには死にかかっているものが住んでいた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
去年ちょうど今時分、秋のはじめが初産ういざんで、お浜といえばいさごさえ、敷妙しきたえ一粒種ひとつぶだね
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さざなみの寄するなぎさに桜貝の敷妙しきたえも、雲高き夫人ぶにん御手みて爪紅つまべにの影なるらむ。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雛の前では紅玉こうぎょくである、緑珠りょくしゅである、みな敷妙しきたえたまである。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ緋毛氈ひもうせんのかわりに、敷妙しきたえの錦である。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)