拳銃けんじゅう)” の例文
彼女が初めに一つ火蓋ひぶたを切ってから、ひどくおびえて拳銃けんじゅうを下げ、死人のように青くなって彼を凝視していた、あの時と寸分ちがわぬ姿だった。
かく拳銃けんじゅうが寝床に置いてあったのを、持って来れば好かったと思ったが、好奇心がそれを取りに帰る程の余裕を与えないし、それを取りに帰ったら
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
言うまでもなく、危機一髪のさかい猛虎もうこを射殺した名射撃手は明智であった。彼の右手に握られたコルト拳銃けんじゅうから、名残りの白煙がかすかに立ち昇っていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はしじみのような黒いをして、いつものようにじっと夫人を見つめていた。夫人は再度拳銃けんじゅうを取りあげた。そして前よりももっと近く、すぐ猫の頭の上で発砲した。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
がしかし、当日、ドーブレクは自分の書斎において、四人連れの男のため、拳銃けんじゅうを放つほどの大挌闘を演じた末、時もあろうに白昼どこともなく引攫われてしまった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「警察? そんなことをすれば、石段を上らないうちに拳銃けんじゅうでやられてしまいます」
謎の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
その全砲兵を拳銃けんじゅうのごとく手中に握り、戦地のここかしことねらいを定めるのを常としていたので、馬に引かれた砲兵隊が自由に動き回り駆け回り得るまで待つことにしたのである。
だれも拳銃けんじゅうの音を聞かなかった。
ニール・パーヴルイチ、おい、ニール・パーヴルイチ、さっき報告の来た紳士は、なんといったっけね? ほら、ペテルブルグ区で拳銃けんじゅう自殺をした
明智の仕草しぐさがすばやかったので、相手は用意の拳銃けんじゅうを取り出すすきがなかった。さすがの野獣も言われるままに「お預け」みたいな恰好かっこうをしなければならなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ふいに彼女はポケットから拳銃けんじゅうを取り出して、引金を上げ、拳銃を持った手をテーブルの上にのせた。スヴィドリガイロフは席からおどりあがった。
スックと立ち上がった明智の手には、すばやくポケットの小型拳銃けんじゅうが握られていた。と、申し合わせたようにやさしい文代さんの右手にも、どこに隠していたのか、同じピストルが。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)