扼殺やくさつ)” の例文
すさまじい扼殺やくさつが行われた夜、葛木と光麻呂は遠い別棟に居り、花世はまだ十一で、眠っていたところを清成に抱きだされたのだったから
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
が、しかし、気管中にも栓塞せんそくしたらしい物質は発見されず、口腔を閉息した形跡もないばかりか、索痕さっこん扼殺やくさつした痕跡は勿論見出されなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「死んでいますね。頸にひどい傷がついている。扼殺やくさつでしょう。……電話は? このうちには電話があったはずですね」
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そういえば、いつかのデモ事件の犠牲者は、あきらかに他殺だったな、と私は考えた、扼殺やくさつとも圧死ともとれる屍体。
ロンリー・マン (新字新仮名) / 山川方夫(著)
アナーキストの首領であった大杉栄・伊藤野枝夫妻と六歳だかの甥宗一の三人が、憲兵隊で甘粕大尉に扼殺やくさつされ、古井戸へ投げこまれたのも、このときだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
殺人であって自殺ではないことは、のちに隧道の中から探し出された轢断屍体れきだんしたい咽喉部いんこうぶに残る紫色の斑紋はんもんから明らかなことだった。扼殺やくさつ——つまり喉を締めたのだ。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もし幸福論を抹殺してかかるなら、主知主義を扼殺やくさつすることは容易である。実際、今日の反主知主義の思想の殆どすべてはこのように幸福論を抹殺することから出発しているのである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
傷といふものは一つも無く、強い腕で首のあたりを卷かれ、其儘扼殺やくさつされたことは疑もなく、衣紋の亂れのひどいのに比べて、顏は寧ろ陶醉たうすゐ的な、法悦的な安らかさをたゝへてゐるのです。
その部分に当る頸椎けいついに脱臼が起っていて、疑いもなくレヴェズの死因は、その扼殺やくさつによるもので……、恐らくそうしてから、絶命に刻々と迫ってゆく身体を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「さて、と。じゃ、この端っこのから行きましょうか。これはね、これは扼殺やくさつです。二十二歳。パンパンでね、その夜はじめての客に殺されたんです。ね? この喉、ここに黒く指の跡があるでしょ? その次のはと。ええと、あ、これはガス自殺だ。……」
恐怖の正体 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
恐らく犯人は、レヴェズを前室に引き込んで扼殺やくさつし、その屍体を奥の屍室の中に担ぎ入れたのであろう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)