手擦てずれ)” の例文
それ、貴下あなたから預かっているも同然な品なんだから、出入れには、自然、指垢ゆびあか手擦てずれ、つい汚れがちにもなりやしょうで、見せぬと言えば喧嘩けんかになる……弱るの何んの。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
袋は能装束のうしょうぞくの切れ端か、懸物かけものの表具の余りでこしらえたらしく、金の糸が所々に光っているけれども、だいぶ古いものと見えて、手擦てずれと時代のため、派手な色を全く失っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
書架から手擦てずれのした、羊皮表紙の新約全書を引ずり出した。盲目めくらさぐりに開くと、約幹伝ヨハネでんの十一章が出た、七節から読始めたが気も無く止した。又開けたのは馬太マタイ伝の六章、有名な山上の垂訓である。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)