戦慄ふる)” の例文
旧字:戰慄
あゝ、年は若し、経験は少し、身は貧しく、義務年限には縛られて居る——丑松は暗い前途を思ひやつて、やたらに激昂したり戦慄ふるへたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし僕は戦慄ふるう手に力を入れて搬機ひきがねを引いた。ズドンの音とともに僕自身が後ろに倒れた。叔父さんが飛び起きた。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
基督教の目的だとおつしやるのです——初め私は、現在の社会の罪悪を攻撃なさる議論の余り恐ろしいので、ほとん身体からだ戦慄ふるへる様でしたがネ、基督の平和、博愛、犠牲の御精神を
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
蓮太郎——大日向——それから仙太、斯う聯想した時は、猜疑うたがひ恐怖おそれとで戦慄ふるへるやうになつた。あゝ、意地の悪い智慧ちゑはいつでも後から出て来る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わきよりは蟋蟀きりぎりすの足めきたるひじ現われつ、わなわなと戦慄ふるいつつゆけり。この時またかなたより来かかりしは源叔父なり。二人は辻の真中にて出遇であいぬ。源叔父はその丸きみはりて乞食を見たり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其日の物語、あの二人の言つた言葉、あの二人の顔に表れた微細な感情まで思出して見ると、何となく胸肉むなじゝ戦慄ふるへるやうな心地がする。先輩の侮辱されたといふことは、第一口惜くやしかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)