成心せいしん)” の例文
杢助はどちらでもよかった、杢助には少しも成心せいしんはなかった、杢助はただ怠けていることができれば文句はないのであった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼がしりぞけているのは狂言であり偏執であり成心せいしんであり盲従であって、求めているのは冷静な客観の自由であり、公平な立会人たる権利なのである。
が、物語がひどく私達の常識からかけ離れているのと、それから場所、人に対する成心せいしんの故とで、おそらく誰にも信じてはもらえなかったであろう。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
吾人の家屋は新なりと雖、吾人の成心せいしんは古しと。吾人はこの語の猶事実に合せざるを遺憾とす。なんとなれば吾人の家屋はそのはしごを新にしたるのみにて実は古きなり。
私の予想は成心せいしんではなかつた。私の父は善人である。気節を重んじた人である。勤王家である。愛国者である。生命財産より貴きものを有してゐた入である。理想家である。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私がそうするのは別に何らの成心せいしんがあってのわけではないのだが——そうせずにはいられないからするのではあるが——相手は馬鹿にそれを徳として無理に籠の中に紙幣なんかを
「なにきまりが悪いばかりじゃない。成心せいしんがあっちゃ、好い批評ができないというのが、あいつの主意なんだ。つまりお延の公平に得た第一印象を聞かして貰いたいというんだろう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)