ふる)” の例文
父親と衝突して斯んな処に逃れ、父親の怖ろしい顔にふるへながら、愚劣な日を送つてゐる青年の心の悲しみなどに、何処に同情などを寄せる人が有るべくもない。
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
初めて審問廷へ引き入れられて、初めて捜査官の前に立つたとき、もう身内はふるへた。魂はふるへた。何事か訳の解らぬことを問はれて、訳の解らぬことを答へた。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
自分が六つめの梯子まで来た時は、手がだるくなって、足がふるえ出して、妙な息が出て来た。下を見ると初さんの姿はとくの昔に消えている。見れば見るほど真闇まっくらだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三度目に呼ばれた時には欄干につかまっていながら膝頭ひざがしらががくがくふるえ出したのです。その声は遠くの方か、川の底から出るようですがまぎれもない○○子の声なんでしょう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さあ御上がんなさいと裸蝋燭はだかろうそくを僕の顔に差しつけた娘の顔を見て僕はぶるぶるとふるえたがね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夏になっても冬の心を忘れずに、ぶるぶるふるえていろったって出来ない相談である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死なない程度において病気と云う一種の贅沢ぜいたくがしていたいのである。それだからそんなに病気をしていると殺すぞとおどかせば臆病なる主人の事だからびりびりとふるえ上がるに相違ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)