思慕エロス)” の例文
この思慕エロスは彼の俳句に一貫しているテーマであって、独得の人なつかしい俳味の中で、ねぎにおいのようにけ流れている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
即ち「昔々しきりに思う慈母の愛」「春あり成長して浪葉にあり」の情愁で、時間の遠い彼岸ひがんにある、或る記憶に対するのすたるじや、思慕エロス川辺かわべへの追憶である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
思ふに彼等は、夜の灯火といふものに対して、何かの或る神秘的なあこがれ、生命の最も深奥な秘密に触れてゐるところの、不思議な恋愛に似た思慕エロスを感じてゐるにちがひない。
月の詩情 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ヴェルレーヌ、李白りはくに至っては典型的なる純情のニヒリストで、陶酔の刹那せつなに生をけ、思慕エロス高翔こうしょう感に殉死しようとするところの、まことの「詩情の中の詩情」を有する詩人であった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
さらに天文学の発達が、月を疱瘡あばた面の醜男ぶをとこにし、天女の住む月宮殿の連想を、荒涼たる没詩情のものに化したことなども、僕等の時代の詩人が、月への思慕エロスを失つたことの一理由であるかも知れない。
月の詩情 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)