御廂みひさし)” の例文
たまたま、人影らしいものがあるかと見れば、宿のない病人や順礼が、大慈だいじ御廂みひさしを借りて、こもにくるまッている冷たい寝息……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このお堂の御廂みひさしを仰いで、ふいと思い浮かんだのも、何か深い因縁ずく……と、急に開けてみたくなったもんだから……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慈悲の御廂みひさしの下ならば、同じ死ぬにも——狂乱した良人の刃物で殺されるにしても——幾分かなぐさめられる心地がする。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十四初めてまゆを描き、十五すでに簾裡れんりもすそを曳く——と、玉の輿こしを羨まれた彼女も、ことし二十三、はやくも両の乳に三児を抱いて、住むに家もなく、大悲の御廂みひさしにこの寒空の夜をしのごうとは
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その詳報の聞えるたびに、夜の花は、声なき御廂みひさしを、雨と打った。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)