彷彿そっくり)” の例文
それは隅田川すみだがわを往復する川蒸汽の音に彷彿そっくりで、どうかするとあの川岸に近い都会の空で聞くような気を起させる。よく聞けばやはり山の上の汽車だ。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
姉は久しぶりで一緒になった弟を前に置いて、夫に向って、「まあ、捨吉の坐っているところを見てやって下さい、あれの手なぞはお父さんに彷彿そっくりです」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫はお房が可愛くて成らないという風で、「この児のほっぺたは俺の母親おっかさんに彷彿そっくりだ」などと言っているかと思えば、突然だしぬけにお雪に向ってこんなことを言出す。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほんに、この児は壮健じょうぶそうな顔をしてる。眼のクリクリしたところなぞは、三吉の幼少ちいさい時に彷彿そっくりだぞや……どれ、皆な好い児だで、伯母さんが御土産おみやを出さずか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その縁側のところへ来て、お仙が父の達雄に彷彿そっくりな、額の広い、眉のひいでた、面長な顔を出した。彼女は何を見るともなく庭の方を見て、復た台所の方へ引込んで了った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おやじおれもおめえ此頃こないだ馬を買った覚がある。どうだい、この馬は何程どのくれえ評価ねぶみをする——え、背骨の具合は浅間号に彷彿そっくりだ。今日この原へ集った中で、このくれえ良い馬は少なかろう
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)