弁天山べんてんやま)” の例文
殊に仁王門におうもんを這入って右手めての、五重の塔、経堂きょうどう、ぬれ仏、弁天山べんてんやまにかけての一区劃くかくは、宵の内からほとんど人通りがなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
折から梢の蝉の鳴音なくねをも一時いちじとどめるばかり耳許みみもと近く響き出す弁天山べんてんやまの時の鐘。数うれば早や正午ひるの九つを告げている。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草寺境内せんさうじけいだい弁天山べんてんやまの池も既に町家まちやとなり、また赤坂の溜池も跡方あとかたなくうづめつくされた。それによつて私は将来不忍池しのばずのいけまた同様の運命に陥りはせぬかとあやぶむのである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
浅草寺境内せんそうじけいだい弁天山べんてんやまの池も既に町家まちやとなり、また赤坂の溜池ためいけ跡方あとかたなくうずめつくされた。それによって私は将来不忍池もまた同様の運命に陥りはせぬかとあやぶむのである。
このあたりで女達の客引に出る場所は、目下足場の掛っている観音堂の裏手から三社権現さんじゃごんげんの前の空地、二天門にてんもんの辺から鐘撞堂かねつきどうのある弁天山べんてんやまの下で、ここは昼間から客引に出る女がいる。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)