まく)” の例文
朝、目が醒めると私の脚もとから胸先へかけて麗らかな陽が射してゐるかと思ふと、頭上のまくに大臼にも増した仁王のかしらが、くつきりと映つてゐることがある。
ダニューヴの花嫁 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
始めは気が付かなかったが、部屋の左手の隅に次の間へ通ずる出口があって、重い緞子どんすまくが深い皺を畳み、ナイヤガラの瀑布を想わせるようにどさりと垂れ下って居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
萌黄のまくの向うにある床の間の軸を判じようとしたけれど、何か南画の山水の横物らしいとは思えても、行燈が中にあるせいか外はもやもやとかげっていて、図柄も落欵らっかんもよく分らない。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)