巻雲まきぐも)” の例文
すると不思議な事に、昨日きのふまであんなに気にかかつてゐた巻雲まきぐもも、巻積雲も、雑巾ざふきんで拭き取つたやうに痕形あとかたも無くなつてゐた。
とたんに樹々の嫩葉わかばも梢もびゅうびゅうと鳴って、一点暗黒となったかと思うまに、一ちゅう巻雲まきぐもが、はるか彼方の山陰をかすめて立ち昇った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄い月の光で、海のおもてがぼんやりとけむり、古沼ふるぬまのようにはるばるとひろがっている。空には白い巻雲まきぐもがひとつ浮いていて、眼に見えぬくらいゆっくりと西のほうへ流れてゆく。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
巻雲まきぐものように揚った戦雲の突然に、その理由も汲めず、百姓はただ往年の恐怖をあらたにしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七日の正午頃藤原中央気象台大阪出張所長は梅田の通運会社の二階で、額の上に巻雲まきぐものやうな皺を寄せて心配さうに言つた。前には新聞記者の幾人かが立つてゐた。博士は急いで言葉を言ひ足した。