己斐こい)” の例文
私達は己斐こいに出ると、市電に乗替えた。市電は天満町まで通じていて、そこから仮橋を渡って向岸へ徒歩で連絡するのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
宮島から電車で己斐こいの一つか二つ手前の何とかいう海水浴場で午後ずっとゆっくりして、そして夕方友ちゃんをのせてから市へ行けばいいと云っていて、そのつもりにしていたの。
西の方、己斐こいの山からやって来て
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
馬車はそれから国泰寺の方へ出、住吉橋を越して己斐こいの方へ出たので、私はほとん目抜めぬきの焼跡を一覧することが出来た。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
小さな荷物持たされて、正三は順一と一緒に電車の停車場へおもむいた。己斐こい行はなかなかやって来ず、正三は広々とした道路のはてに目をやっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
バスが橋を渡って、己斐こいの国道の方に出ると、静かな日没前のアスファルトの上を、よたよたと虚脱の足どりで歩いて行く、ふわふわにふくれ上った黒い幻の群が、ふと眼に見えてくるようだった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
五日市まではなにごともないが、汽車が己斐こい駅に入る頃から、窓の外にもう戦禍の跡が少しずつ展望される。山の傾斜に松の木がゴロゴロと薙倒なぎたおされているのも、あの時の震駭しんがいを物語っているようだ。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)