巣籠すごも)” の例文
「親父が古い本を調べているんだ。荒神風呂にかめつどい、鶴も巣籠すごもる峯の松と書いてあるそうだ。それから荒神風呂って名前が不思議だと言っている」
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると、箱の底で巣籠すごもりをしている母親の蝸牛——と、そう彼は言うのだが、その蝸牛のほかは、みんなバルバアルという犬に護衛されて、ぞろぞろ歩き出す。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
岩谷の片身難さぬ尺八も、妻の琴に合わせて吹きすさんだ思い出の楽器で、彼はお座敷でも、女たちの三味線しゃみせんに合わせて、時々得意のつる巣籠すごもりなどを吹くのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その夜頭に繃帯をした武丸は歌寿の家の前に立って「鶴の巣籠すごもり」を吹いた。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
鮒は、秋の半ば過ぎると、水田や細流から大きな流れへ落ちていく途中、充分に餌を採って、やがて暮れ近くなると静かな流れの深いところへ巣籠すごもってしまう。これを狙って釣るのが寒鮒釣りである。
寒鮒 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
二人巣籠すごもるこのほとり眼路めぢのかぎりはおしなべて
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
西引佐へ毎晩のように出掛けて早川君の兄貴達と折衝を重ねたのは僕だ。紆余曲折うよきょくせつは抜きにする。早川君は願いが叶って、荒神風呂の中島屋へ婿養子に来た。荒神風呂にかめつどい、鶴も巣籠すごもる峯の松。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)