寒水石かんすいせき)” の例文
お葉は正面の寒水石かんすいせきの売台の前へ往って、そこから小さな書附かきつけって来て天風の前へ置いた。天風は五十銭銀貨を三つばかり置いてちながらだめを押した。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はまた門の外へも水を運んで行った。熱い、楽しい汗が彼の額を流れて来た。最後に、客の出入する格子こうしを開けて庭のタタキをも洗った。そこには白いなめらかな方形の寒水石かんすいせきがある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お涌は今では、日比野の家の格子戸を開けて入ると女中の出迎えも待たず玄関の間を通り中庭に面している縁側へ出て、その突当りの土蔵の寒水石かんすいせきの石段に足をかける——「いるの」という。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雪はチカチカ青く光り、そして今日も寒水石かんすいせきのようにかたこおりました。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と、電燈の明るいバーが眼にいた。彼は急いでその中へ入った。二条ふたすじ三条みすじかに寒水石かんすいせき食卓テーブルえた店には、数多たくさんの客が立て込んでいた。彼はその右側へ往って腰をかけた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お涌は今では、日比野の家の格子戸を開けて入ると女中の出迎へも待たず玄関の間を通り中庭に面してゐる縁側へ出て、その突当りの土蔵の寒水石かんすいせきの石段に足をかける——「ゐるの」といふ。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)