宛嵌あては)” の例文
『ベンカウ』とは矢張私達の田舍で使ふ言葉で、まあ生意氣と言つたら近いかも知れませんが、すつかり意味の宛嵌あてはまる東京言葉は一寸思ひ當りません。
見るほどのものはあらかじめの心積りの高さを率て実山に宛嵌あてはめ眺めるのであった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自己の破壊にも等しい懺悔ざんげ——彼は懺悔という言葉の意味が果してこういう場合に宛嵌あてはまるかどうかとは思ったが——その結果が自分に及ぼす影響の恐ろしさを思うと
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『翁』といふ言葉の持つ意味が一番よく宛嵌あてはめられるのも芭蕉であるやうな氣がする。
芭蕉 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ギャラントという言葉をそのまま宛嵌あてはめ得るような、巴里に滞在中も黄色い皮の手套てぶくろを集めていたことがまだ岸本には忘れられずにある青年の紳士らしい風采ふうさいをしたその留学生は
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丁度あの雑誌の中に現われていたものは、そのまま学校の方にも宛嵌あてはめて見ることが出来た。こうした意気込の強い、雑駁ざっぱくな学問の空気の中が、捨吉の胸に浮んで来る麹町の学校だった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はまた自分の再婚の場合を仮に節子が他へかたづいたとして宛嵌あてはめて見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)