存生中ぞんしょうちゅう)” の例文
彼女のいわゆる夫というのは何でも、請負師うけおいしか何かで、存生中ぞんしょうちゅうにだいぶ金を使った代りに、相応の資産も残して行ったらしかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若「はい、わたくしの処の親父の存生中ぞんしょうちゅうから奉公して居ります老僕じいやですが、こゝで逢いましたのは誠に幸いな事で」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
圓朝師が在世中、数百の人情噺にんじょうばなしを新作いたしました事は皆様が御承知であります。本篇は師が存生中ぞんしょうちゅう筋々すじ/\わたくしにお話しになりました記憶のまゝを申上ぐる次第であります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その当人というのは叔父の娘すなわち私の従妹いとこに当る女でした。その女をもらってくれれば、お互いのために便宜である、父も存生中ぞんしょうちゅうそんな事を話していた、と叔父がいうのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せんの亭主の存生中ぞんしょうちゅうから幸兵衞と密通していたので、亭主が死んだのを幸い夫婦になったのだとも云って、判然はっきりはしませんが、谷中の天竜院の和尚の話に、何故なにゆえか幸兵衞が度々たび/″\来て
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の父が存生中ぞんしょうちゅうにあつめた道具類は、例の叔父おじのために滅茶滅茶めちゃめちゃにされてしまったのですが、それでも多少は残っていました。私は国を立つ時それを中学の旧友に預かってもらいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
着物も自然ひとりでにできるし、小遣こづかい適宜てきぎに貰えるので、父の存生中ぞんしょうちゅうと同じように、何不足なく暮らせて来た惰性から、その日その晩までも、ついぞ学資と云う問題を頭に思い浮べた事がなかったため
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)