たお)” の例文
緑の怒濤のように前後左右で吼え沸き立つのはよいとして、異様な動悸を打たせるのは、竹はたおやかだからその擾乱の様がいやに動的ぽいことだ。
雨と子供 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「……貴方のお立場を考えますから、私手をこうやってはいましても」と妻はスタンド台にかけている白魚のようにたおやかな指を動かして見せた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
男は箱の中へ手を入れて、水をきまぜると、白い美しい魚らは悲しそうに水の間によろよろとよろけるのです。それがいかにも可哀想にたおやかに見えるのです。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かすかな風に吹かれているときの花の茎に認められ——人間に在っては、一種の独断的な無心な状態に於けるときたたえられている、あの何とも知れない無限でたおやかな空虚——(後略)
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その葉は浮華な移り気を戒めるごとく四時青々として緑の色を保ち、亭々と直上した修稈は真直な心を表わし、柔に似て柔ならず、剛に見えて剛ならず、その中庸を得たたおやかな姿で
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
無精で呑気のんき仇気あどけない愛嬌があって、たおやかな背中つきで、恋心に恍惚しながら、クリストフと自分との部屋の境の扉を一旦締めたらもう再び開ける勇気のなかったザビーネ。
アンネット (新字新仮名) / 宮本百合子(著)