失踪しつそう)” の例文
が、それだけの事情はよく判つても、それが乙松の失踪しつそうや、伊之助の殺された事と、何の關係があるか、容易に見當も付きません。
「さうぢやらう、学士になるか、高利貸になるかと云ふ一身の浮沈の場合に、何等の相談もんのみか、それなり失踪しつそうして了うたのは何処どこが親友なのか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そして壽阿彌の墓は傳通院に移された墓石中には無かつた。師岡氏未亡人は忌日に參詣して、壽阿彌の墓の失踪しつそうを悲み、寺僧に其所在を問うてまなかつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
だ燃え立つ復讐ふくしうの誠意、幼き胸にかき抱きて、雄々しくも失踪しつそうせる小さき影を、月よ、汝は如何いかに哀れと観じたりけん、がるゝ如き救世の野心に五尺の体躯からだいたづら煩悶はんもんして、鈍き手腕
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お利榮は四十二三の愚痴ぐちつぽい女で、夫の急死と娘の失踪しつそう顛倒てんだうし、何を訊いてもしどろもどろですが、主人の前身に就ては
その場より貫一の失踪しつそうせしは、鴫沢一家しぎさわいつけの為に物化もつけ邪魔払じやまばらひたりしには疑無うたがひなかりけれど、家内かないこぞりてさすがに騒動しき。その父よりも母よりも宮は更に切なる誠をめて心痛せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勇太郎失踪しつそうの直接の責任者と思はれて居るお春の方が氣を揉み、お春よりは又、七年間勇太郎を育てたお霜の方が大きな打撃だげきを受けて居る樣子です。
見事な失踪しつそうぶりです。