夜更よなか)” の例文
夜更よなか目敏めざとい母親の跫音あしおとが、夫婦の寝室ねまの外の縁側に聞えたり、未明ひきあけに板戸を引あけている、いらいらしい声が聞えたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀は蒼い顔をして、よく夜更よなかに床のうえに起きあがっていた。そしてランプの心をき立てて、夜明けの来るのを待ち遠しがっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀も弟たちのかかって来た子守の乱暴であったことや、自分たちを蒲団捲きにしたり、夜更よなかに閉め出しを食わしたりした父親の気の荒かったことなどを話し出して笑った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どの部屋もひっそりと寝静まった夜更よなかに、お増の耳は時々雨続きで水嵩みずかさの増した川の瀬音におどろかされた。電気の光のあかあかと照り渡った東京の家の二階の寝間の様などが、目に映って来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笹村は、よく夜更よなかに寂しい下宿の部屋から逃れて、深い眠りに沈んでいる町から町を彷徨さまよい、静かな夜にのみ蘇生よみがえっている、深山の書斎の窓明りを慕うて行ったころのことを思い出していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)