多町たちょう)” の例文
律詩の後半を仔細しさいあじわえば、お玉ヶ池の神田川に臨んで多町たちょうの青物市場に近く、また豊島町の酒問屋にも遠からざる近隣の景況がおのずから目に浮ぶ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この閨秀けいしゅうの傑作がつづりだされようと誰が知ろう、それよりもまた、その文豪が、朝は風呂敷包みを背負って、自ら多町たちょうの問屋まで駄菓子を買出しにゆき、蝋燭ろうそくを仕入れ
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
多町たちょうの辻から駕籠に乗り、六阿弥陀ろくあみだの通りを北へ一町、杉の生垣を廻した萩寺の前へ出た。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
河岸の連中のいまゝでより一層肩を入れるようになったのは勿論いて大根河岸だいこがしだの多町たちょうだの、およそ由良を贔負にするそうしたさかり場からとも/″\幕だののぼりだのがかれへまで来るようになり
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)