夏蚕なつご)” の例文
旧字:夏蠶
夏蚕なつごで下葉からもぎとられて行つた桑は、今頭の方だけに汚ならしい葉をのこして、全体に透きながら間の抜けた形で風にゆらいでゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そして帰る日の朝には、宿の川向かいの貧しい家に夏蚕なつごを飼っているのを勤労の心地で眺めたり、宿の寡婦の淋しい身上話をしみじみと聞いてやれるほどおちつきを得ました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
夏蚕なつごから晩秋蚕まできぬを掃かなかったから、年末にはおそろしい窮乏に見舞われた。
藪落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夏蚕なつごう家はないが、秋蚕を飼う家は沢山たくさんある。秋蚕を飼えば、八月はまだせわしい月だ。然し秋蚕のまだ忙しくならぬすきねらって、富士詣ふじまいり、大山詣、江の島鎌倉の見物をして来る者も少くない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)