塗師屋ぬしや)” の例文
お米といって、これはそのおじさん、辻町糸七——の従姉いとこで、一昨年おととし世を去ったお京の娘で、土地に老鋪しにせ塗師屋ぬしやなにがしの妻女である。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの路地のかどの酒屋、二軒目の渋紙屋しぶかみや、その並びの烏帽子折えぼしおり塗師屋ぬしや柄巻つかまき職人など住んでいた一と長屋が、一夜のうちに皆、空家になりましてな」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時、師匠東雲の家は駒形町にありまして、私は相更あいかわらず修業中……その十五日の前の晩(十四日の夜中)に森下にいる下職したじょく塗師屋ぬしやが戸をたたいてやって来ました。
「でも。——後生ごしょうだからさ、おじさん。あそこの塗師屋ぬしやの裏で、紙漉かみすきだの桶屋の若い衆たちが集まって、剣術をやっているから、そこへ試合に行って、一度、勝っておくれよ」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば、或る仏師の弟子の製作があるとして、それが塗師屋ぬしやの手に渡る。
「やあ、塗師屋ぬしや様、——ご新姐しんぞ。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もと塗師屋ぬしや職人で半さんといい、道楽という道楽はし尽したあげく、吉原の花魁おいらんと心中し損ね、日本橋のたもとでさらし者にまでされたこともある——ということなどを、いつか彼等は知っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)