執濃しつこ)” の例文
或時はこんな光景がほとんど毎日のように三人の間に起った。或時は単にこれだけの問答では済まなかった。ことに御常は執濃しつこかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最前と同じ執濃しつこい大年増の匂ひが、鼻をもぎ取るほどに、ぷんとした。この家内はよく間男といふ惡い事をするといふことが、幼い自分の耳にも入つてゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さう致すと、案の定可厭いやらしい事をもうもう執濃しつこく有仰るのでございます。さうして飽くまで貴方の事をうたぐつて、始終それを有仰るので、私一番それには困りました。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども執濃しつこいこの男の方ではけっしてそのままに済ます気はなかったものと見えて、むやみに催促を始め出した。その催促は一週に一遍か、二週に一遍の割できっと来た。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それだのに叔父はなぜ三好に対する自分の評を、こんなに執濃しつこく聴こうとするのだろう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
森本のような浮浪のといっしょに見られちゃ、少し体面にかかわる。いわんや後暗うしろぐらい関係でもあるように邪推して、いくら知らないと云っても執濃しつこく疑っているのはしからんじゃないか。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)