埃風ほこりかぜ)” の例文
と思うとたちまち想像が破れて、一陣の埃風ほこりかぜが過ぎると共に、実生活のごとく辛辣しんらつな、眼にむごとき葱のにおいが実際田中君の鼻を打った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歩くにしてもここからは、神田橋かんだばしの方へ向って行かなければならない。お君さんはまだ立止ったまま、埃風ほこりかぜひるがえるクリイム色の肩掛へ手をやって
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
埃風ほこりかぜの吹く往来には、黒い鍔広つばびろ帽子ぼうしをかぶって、しまの荒い半オオヴァの襟を立てた田中君が、洋銀の握りのある細い杖をかいこみながら、孤影悄然しょうぜんとして立っている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ラッサは今家々の庭に桃の花のまっ盛りである。きょうは幸い埃風ほこりかぜも吹かない。僕等はこれから監獄かんごくの前へ、従兄妹同志いとこどうし結婚した不倫ふりんの男女のさらしものを見物に出かけるつもりである。……
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは春先の東京に珍しくない、埃風ほこりかぜの吹く午後だった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)