垂簾たれ)” の例文
半七は自分の駕籠の垂簾たれをあげて透かして視ると、その駕籠は今この旅籠屋に乗りつけたらしく、駕籠のそばには二人の男が立っていた。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
垂簾たれをあげて這い出したお絹は、よろけながら下駄を突っかけて立った。提灯のかげにぼんやりと照らされた彼女の顔はまだ蒼かった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
取り分けて肝腎の花形の六三郎の顔が駕籠の垂簾たれにかくされているのを、残り惜しく思う若い女もたくさんあったでしょう。
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
綾衣が駕籠の垂簾たれを覗こうとする時に、白粉おしろいのはげた彼女の襟もとに鳥の胸毛のような軽い雪がふわりふわりと落ちて来た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
口叱言くちこごとを言いながら、文次郎は駕籠屋の提灯を借りて、その風呂敷をあけてみた。一種の好奇心もまじって、お妻も覗いた。お峰も垂簾たれをあげた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その草鞋を穿き替えている間に、次郎左衛門は垂簾たれのあいだから師走の広小路の賑わいを眺めていたが、やがて何を見付けたか急に駕籠を出ると言った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さっきから駕籠のうちで、お峰の親子はこの問答を聞いていたのであるが、もうこうなっては聞き捨てにならないので、お峰は駕籠を停めさせて垂簾たれをあげた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このときに一挺の駕籠がここの店さきに卸されて、垂簾たれをあげて出たのは、かの中年増の女であった。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
引摺つて駕籠のなかへ押込み、外から垂簾たれをおろす。おかんは不安らしく表をのぞいてゐると、路地の口より石子伴作は捕方とりかたの者ふたりを連れ、雲哲と願哲を先に立てて出づ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
再び丁寧にことわって、半七は桐油紙とうゆを着せてある駕籠の垂簾たれを少しまくりあげると、中には白い着物を着ている僧が乗っていた。英俊は泣き声をあげてその前にひざまずいた。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(外記笑ひながら首肯うなづく。綾衣と綾鶴は駕籠に乘りてゆく。雨の音しめやかに、櫻の花はら/\と散りかゝる。外記は傘をさして見送る。綾衣は駕籠の垂簾たれをあげて、見返る。)
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ひとりの武士らしい男が垂簾たれをはねて、彼女のそばにつかつかと進み寄った。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まあ、そうだろうと思うんだが、ばたばたと早足に駆け出して来た奴があって、暗やみからだしぬけに駕籠の垂簾たれへ突っ込んだ。駕籠屋二人はびっくりして駕籠を投げ出してわあっと逃げ出した。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)