国府こくぶ)” の例文
旧字:國府
東作は煙草盆を引寄せて一服吸付け、長閑のどかな煙を長々と吐きました。プーンと高貴な、国府こくぶかおり——。
美穂子の姉の伊与子いよこ、妹の貞子、それに国府こくぶという人の妹に友子といって美しい人がいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鬼無きなし国府こくぶあたりから、ようやく、山近くばみ合ってくる。綾川の南の丘を指さして「鼓ヶ岡が見えます」と、川六の主人がいう。碑らしいものが冬木立の中腹に望まれる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は日本橋の国府こくぶへ納める荷物の中に、幾割かのロオズ物があり、それを回収して、場末の二流三流の商店へ卸すために、時々東京へ出るので、このころにもそのついでに、罐詰を土産みやげ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「大きな親爺おやじが、女房と二人で、今から木戸に坐っていますが、プカプカいぶしている煙草たばこは、国府こくぶの上等、——お大名の御用に上がるような葉だったらどうします、親分」
香具師やしの懐中にも小判のかけらも見えないとすれば、早くもどこかへ隠したか、でなければ、横合から五千両をさらわれて、自棄やけのやん八で国府こくぶ濁酒どぶろくに贅を尽していたのだと睨んだのです。