ついば)” の例文
その日の弁当(持ち運びえのしない)を鴉でもついばむだけの骨折甲斐のない包みにして積み重ねた石ころの上に置いて、仕事にかかっていたのに。
二、三匹の鶺鴒せきれいがその上をば長いとがった尾を振りながら苔の花をついばみつつ歩いている。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
男は必ず負ける。具象ぐしょうかごの中にわれて、個体のあわついばんでは嬉しげに羽搏はばたきするものは女である。籠の中の小天地で女と鳴くを競うものは必ずたおれる。小野さんは詩人である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山懐やまふところに抱かれたおさなひめが、悪道士、邪仙人の魔法で呪はれでもしたやうで、血の牛肉どころか、吉野、竜田の、彩色の菓子、墨絵の落雁らくがんでもついばみさうに、しをらしく、いた/\しい。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あとで果して仲密君の屋敷内に群鶏が雑居して庭じゅうを飛び廻り、地面の上に敷かれた美しい錦の若葉を無残にもついばみ尽した。たいていこれはエロシンコ君の勧告の結果だろうと思われる。
鴨の喜劇 (新字新仮名) / 魯迅(著)
強い日光に照りつけられた海水の反映が室の壁と天井とに絶間たえまなく波紋のうごく影をゑがいてゐる。窓の上に巣を作つてゐる燕が、幾羽となく海の方へ飛んで行つては海草うみくさのちぎれをついばんで来る。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)