吸飲すいのみ)” の例文
彼女の一寸した手不調から、吸飲すいのみの水が口のはたにこぼれかかっても、彼は黙っていた。彼女の言葉や彼女の為す凡ては、宛も彼自身の一部であるかのようだった。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
余はその少し前に、さいの手から吸飲すいのみを受け取って、細長い硝子ガラスの口から生温なまぬるい牛乳を一合ほど飲んだ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
午後、彼女は吸飲すいのみを取って啓介に含嗽をさした。うっかりしていた拍子に、吸飲の水を啓介の頬から蒲団へ少し垂らした。「いやに冷淡になったね、」と啓介は皮肉らしい調子で云った。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しまいには新築の二階座敷を四間よまともに吾有わがゆうとした。余は比較的閑寂な月日のもとに、吸飲すいのみから牛乳を飲んで生きていた。一度はさじで突きくだいた水瓜すいかの底からいて出る赤い汁を飲ましてもらった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)