初酉はつとり)” の例文
明後日あさッて初酉はつとりの十一月八日、今年はやや温暖あたたかく小袖こそで三枚みッつ重襲かさねるほどにもないが、夜がけてはさすがに初冬の寒気さむさが身に浸みる。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
本能的にすくんだ彼女をしめつけて、四日の晩、初酉はつとりに連れてつてやるよ、店をしまつたら、花屋敷の側で待つてな、とささやくのであつた。
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
半七老人を久し振りでたずねたのは、十一月はじめの時雨しぐれかかった日であった。老人は四谷の初酉はつとりへ行ったと云って、かんざしほどの小さい熊手くまでを持って丁度いま帰って来たところであった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐに初酉はつとりなのに今年は例年よりあたたかくて、吹く風も湯あがりの上気した頬に快かつた、馬道うまみちの大通りにまだ起きてゐる支那ソバや十銭のライスカレーを食はせる店があつた
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)