切妻きりづま)” の例文
さすが馴れたもので切妻きりづまの破風の下に人がひとり入れるだけの隙間をこしらえ、ふたりを手招きしてからゴソゴソと穴の中へ入って行ってしまった。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
火は母屋もやの上へ燃えぬけてきた。そしてその大屋根の切妻きりづまの辺には、橘紋たちばなもんの古い旗がひらめいていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
切妻きりづま入母屋いりもや寄棟よせむね等形は様々に分れますが、いずれも深く軒を張るのがその特色です。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
幼いころこういう築泥を見なれていた自分には、さらにその上に追懐から来る淡い哀愁が加わっているように思われる。壁を多く使った切妻きりづま風の建て方も、同じ情趣を呼び起こす。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
平屋の切妻きりづま作りで、片方が六本、片方が六本の柱があり、中心の柱が屋根をささえ、前には金剛矢来こんごうやらいがあり、台坐の岩に雲があって、向って右に雷神、左に風の神が立っていました。
そしてちょうどそこに、気味の悪い一枚の建物が切妻きりづまを街路に突き出していた。
屋根の形も四方葺しほうぶきでなく、切妻きりづまと称して前後まえうしろは壁になったものが多い。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なるほど、今年は無殘、グリイン・ゲエブルスといふ、緑の切妻きりづまのある、イギリスの老婦人の住んでゐる小さな家の裏に吹いてゐたがくの花と、チェッコ公使の別莊の廣々とした芝生だけが鮮やか。
雨後 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)