分前わけまえ)” の例文
浅田は少年の時から我儘わがままが強く、いつも我意を張って弱い弟妹達の分前わけまえまで貪りとっていた。それはみんな物悲しい記憶であった。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
彼はその犯罪記録が私の小説の材料として多額の金銭価値を持つものだと主張し、前持まえもって分前わけまえに預りいというのであった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで兵隊のシモンは父親から分前わけまえを貰ってほくほくもので自分の領地へうつしまた王様のところへ行って仕えました。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
お島は心強いような気がしたが、母親の目の黒いうちは、滅多にその分前わけまえに有附けそうにも思えなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
コゼットとマリユスと共に、彼も幸運の分前わけまえをもらってもよかったであろうか。自分の頭の上の曇りと彼らの上の雲とを深めても、さしつかえなかったであろうか。
阿女あま、何を、うまそうに、さっきから、ぴちゃぴちゃと、ねぶっているだ、俺にも、分前わけまえをよこせ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四方太品川に船して一網にマルタ十二尾を、しかも網をはずれて船に飛び込みたるマルタのみも三尾あり、総てにて一人の分前わけまえ四十尾に及びたりといふ。非常の大漁なり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
吾々はこの地上に於ける自分の分前わけまえ以上のものを決して取らんところの一個の人間を論ずるのじゃ。だからこの種の宗教族であるところの野蛮な生きた論理の研究でありますぞ。
こんな他愛たわいもない会話が取り換わされている間、お延はついに社交上の一員として相当の分前わけまえを取る事ができなかった。自分を吉川夫人に売りつける機会はいつまでっても来なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)