凝乎ぢつ)” の例文
『好し、好し、今歸つてやるよ。僕だつて然う沒分曉漢わからずやではないからね、先刻御承知の通り。處でと——』と、腕組をして凝乎ぢつと考へ込む態をする。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この虫はかうして身動きもせず凝乎ぢつとしたまま、今、静かに空気の神秘にふれて居るのであつた。
半眼を開いた眼を凝乎ぢつと笹の葉ほどに小さく幽かになつて行く同じ船の上に何處までも置いてゐるのであつたが、誰かの足音か聲かに覺まされたもののやうにと正氣づいてにはかに顏をもた
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
と語り来つて感慨に堪えざるものゝ如く凝乎ぢつと手中の写真を見詰るので、傍の見る目も気の毒となつて、ソツと顔をそむけると床の間には香の煙りのゆら/\と心細くも立昇るので僕は覚えずも
親しい人の顔が、時として、凝乎ぢつと見てゐるうちに見る見るても肖つかぬ顔——顔を組立ててゐる線と線とが離れ/\になつた様な、唯不釣合な醜い形に見えて来る事がある。
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
なほその幹をよく見て居ると、その脱殻から三四寸ほど上のところに、一疋の蝉が凝乎ぢつとして居るのを発見することが出た。それは人のけはひに驚く風もないのは無理もない。