凌雲閣りょううんかく)” の例文
これは相撲の番附、こちらが名人かがみ、向うが凌雲閣りょううんかく、あれが観音様、瓢箪池ひょうたんいけだって。喜蔵がいつか浅草へ供をして来た時のようだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十万坪の別荘を市の東西南北に建てたから天下の学者をへこましたと思うのは凌雲閣りょううんかくを作ったから仙人せんにんが恐れ入ったろうと考えるようなものだ……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昭和十二年、わたくしが初めてオペラ館や常盤座ときわざの人たちと心易くなった時、既に震災前の公園や凌雲閣りょううんかくの事を知っている人は数えるほどしかいなかった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だもんですから、兄なんぞは、毎日の様にあの凌雲閣りょううんかくへ昇って喜んでいたものです。と申しますのが、兄は妙に異国物が好きで、新しがり屋でござんしたからね。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
凌雲閣りょううんかく登壇人(未来の天狗てんぐ木葉武者こっぱむしゃ)ってのがあるわ。浅草公園、十二階のことでしょ。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
○自分の団扇ときめて毎日手に持つて居るごく下等な団扇が一つある。この団扇の画は浮世絵で浅草の凌雲閣りょううんかくが画いてあるので、勿論見るに足らぬものとしてよく見たこともなかつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
琴の音はもうついて来ぬ。森の中でつくつくほうしがゆるやかに鳴いて、日陰だから人が蝙蝠傘こうもりがさを阿弥陀にさしてゆる/\あるく。山の上には人が沢山たくさん停車場から凌雲閣りょううんかくの方を眺めている。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
野だのようなのは、馬車に乗ろうが、船に乗ろうが、凌雲閣りょううんかくへのろうが、到底寄り付けたものじゃない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浅草の旧地では凌雲閣りょううんかくの裏手から公園の北側千束町の路地に在ったものが、手を尽して居残りの策を講じていたが、それも大正十二年の震災のために中絶し、一時悉くこの方面へ逃げて来た。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ああ、凌雲閣りょううんかく?」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)