凄愴ものすご)” の例文
「何か見付みつかりましたか。」と、お杉は重ねて問うた。その声が四方の低い石壁に響いて、何となく凄愴ものすごいように聞えた。市郎は黙って立っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女かれが若かりし春の面影は、おそらく花のようにも美しかったであろうと想像されるが、冬の老樹おいきの枯れ朽ちたる今の姿は、ただ凄愴ものすごいものに見られた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
気の弱いものにはむしろ凄愴ものすごいようにも思われた。白髪しらがの多い、頬骨の高いおまきは、伏目にそれをじっと眺めながら、ときどきそっと眼を拭いていた。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
赭土色あかつちいろはだで、髪の長い、手足の長い、爪の長い、人か猿か判らぬような怪物である。彼は市郎の靴で額の真向まっこうを蹴破られたと見えて、濃黒どすぐろいような鮮血なまちその凄愴ものすごい半面を浸していた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)