光輝ひかり)” の例文
壁にかけられた油絵のけばけばしい金縁の光輝ひかりさえ、黄昏たそがれ時の室の中の、鼠紫の空気の中では毒々しく光ることは出来ないらしい。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
壁には、象を料理するのじゃないかと思うほどの大鉞おおまさかり大鋸おおのこぎり、さては小さい青竜刀せいりゅうとうほどもある肉切庖丁にくきりほうちょうなどが、燦爛さんらんたる光輝ひかりを放って掛っていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かつ空虚うつろのように捨吉の眼に映った天井の下、正面にアーチの形を描いた白壁、十字を彫刻きざんだ木製の説教台、厚い新旧約全書の金縁の光輝ひかり、それらのものがもう一度彼の眼にあった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旭の光輝ひかりに照らされたる、人形の瞳は玲瓏れいろうと人を射て、右眼、得三の死体を見てめいするがごとく、左眼泰助を迎えて謝するがごとし。五体の玉は乱刃らんじんに砕けず左の肩わずかに微傷のこんあり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人々の視線は燦然さんぜんとした黄金の光輝ひかりに集つたのである。一人の町会議員は其金質を、一人は其重量めかた直径さしわたしとを、一人は其見積りの代価を、いづれも心に商量したり感嘆したりして眺めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)