傷痕しょうこん)” の例文
しかし、薄弱なるさまよいの子には、逆境の魔が小石一つ彼に投げても、彼は生涯の傷痕しょうこんに持って、容易にいつでも自分から落伍してゆく。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時代の深傷を生ま生ましく刻印され、その傷痕しょうこんをして聖痕たらしめよ。これが太子の示唆されし最大の教訓であった。戦争に深く傷ついた人間は、平和にも同様に傷つくであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
迂曲うきょくし、亀裂し、石畳はなくなり、裂け目ができ、穴があき、錯雑した曲がりかどが入り組み、秩序もなく高低し、悪臭を放ち、野蛮で、暗黒のうちに沈み、舗石しきいしにも壁にも傷痕しょうこんがつき
梶はこの経済上のからくりに興味を感じたのでハンガリア人を使って種種の方面からしらべてみた。すると、そのマッチ一箇の値段の中から意外にも複雑なヨーロッパの傷痕しょうこんが続続と露出して来た。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
総じて、殺害の訴えには明らかな犯行の動機と現場の物件、死体の傷痕しょうこん、犯人の足跡、その他の傍証ぼうしょう、五ツの要目がなければだんは下せぬものだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)