亜鉛塀トタンべい)” の例文
と気が付いた……ものらしい……で、懐中ふところあごで見当をつけながら、まずその古めかしい洋傘こうもりを向うの亜鉛塀トタンべいおしつけようとして、べたりとぬりくった楽書らくがきを読む。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或は亜鉛塀トタンべいめぐらした工場である。或は又見すぼらしいバラツクである。斎藤茂吉さいとうもきち氏は何かの機会に「もののきとどまらめやも」と歌ひ上げた。しかし今日こんにち本所ほんじよは「ものの行き」を現してゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、見迎えて一足退いて、亜鉛塀トタンべいに背の附くまで、ほとんど固くなった与五郎は、たちまち得も言われない嬉しげな、まぶしらしい、そして懐しそうな顔をして
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片側波を打った亜鉛塀トタンべいに、ボヘミヤ人の数珠のごとく、烏瓜を引掛ひっかけた、くだん繻子張しゅすばりもたせながら、畳んで懐中ふところに入れていた、その羽織を引出して、今着直した処なのである。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)